英国の美術館学芸員ジェーン・フィンドレーが語る、日英のクリエイティブヘルス


『ああともTODAY』では、「文化的処方」という考え方を、より多くの人に届けたいと願っています。そこで『KEYWORD』という連載をもうけ、記事の中で使われる用語について、やさしく丁寧に紐解いていきます。背景を交えて、言葉が持つ意味を感じ取りながら「文化的処方」に自然と親しめる入口にできればと思っています。
文化的処方とは、芸術や創造的な活動、文化的な場所との出会いや関わりを通して、健康とウェルビーイングを支える実践です。文化は、美術や音楽などの芸術活動だけでなく、料理や園芸、遊びなど、日々の暮らしの中にも息づいています。私たちは、そうした営みの中で心を動かされ、誰かと喜びや発見を分かち合いながら、文化を受け取るだけでなく、自らつくる存在でもあります。文化的処方では、健康を身体的なことだけでなく、精神的・社会的・文化的なウェルビーイングを含むものとしてとらえ、文化に関わることそのものが、人がよりよく生きることにつながると考えます。
こうした考え方は、日本の政策ともつながっています。2017年に施行された文化芸術基本法には、文化芸術を創造し享受することは「人々の生まれながらの権利」であると記されており、文化的処方も、誰もが文化にふれ、関わることのできる環境は、人々が心豊かに、健やかに暮らしていくために欠かせないものだと考えています。
文化的な経験は、人の気持ちをほぐし、自分の内面の感覚に目を向けたり、人や社会とのつながりを生み出したりするきっかけになります。世界各地で取り組まれているこれまでの研究でも、芸術や文化活動への参加が、特に心理社会的ウェルビーイングの向上や、抑うつ、孤独、社会的孤立の軽減につながる可能性が示されています。
イギリスなどで広がる Social Prescribing(社会的処方)について、世界保健機関(WHO)は、医療従事者が患者を地域にあるさまざまな非医療的サービスにつなぎ、健康とウェルビーイングの向上を図るための方法と説明しています。また社会的処方を、それ自体が一つの非医療的な介入というよりも、患者のニーズに応じて地域の資源へとつなぐ「経路(pathway)」として捉えています。
社会的処方が、医療従事者を起点として人を地域資源へとつなぐ「経路」であるのに対し、文化的処方は、文化の側から、人と文化の関係をひらき、そこで生まれる新しい出会いや視野によって、人々やコミュニティを健康でウェルビーイングな状態にする取り組みです。
