マリーが教えてくれること

ミュージアムの時間をセラピー犬と共に

| [写真提供] #MeetMurray @KarenBrackenri4 [文]ああともTODAY編集部

A therapy dog and a dog trainer sitting together in the Museum

体の調子には良い時と悪い時があるように、心の調子にもまた良い時と悪い時があります。心の調子がすぐれない時、「誰か」と一緒に過ごす時間が大きな助けになることもあるものです。さて、あなたはどんな「誰か」を想像しましたか? 気心の知れた友だち、あるいは家族の顔を思い浮かべたでしょうか。でも、もしかしたら「誰か」はヒトだけではないのかもしれません。 

セラピー犬は、人との触れ合いの中で健康やウェルビーイングの支援をする、訓練を受けた犬です。犬との関わりが人の心と体に良い影響を与えることは古くから知られてきたようですが、現代では動物介在療法(Animal Assisted Therapy)としてその方法や効果についても様々な研究が行われ、日本国内でも高齢者福祉施設や障害者支援施設、学校、病院などで、セラピー犬が活躍する場が広がりつつあります。体や心の調子が少し思わしくないとき、あなたに寄り添ってくれる「誰か」としてセラピー犬が一緒に時間を過ごしてくれるのです。 

セラピー犬の新たな活躍の場に、ミュージアムも加わろうとしています。英国マンチェスターにあるマンチェスター博物館には大人気のセラピー犬、マリーがいます。 

マンチェスター博物館のセラピー犬マリー
マンチェスター博物館のセラピー犬マリー
写真提供:#MeetMurray @KarenBrackenri4 on X (https://x.com/KarenBrackenri4/)

マリーはオスのボーダーコリーで、マンチェスター・ミュージアムのラーニング/エンゲージメント長であるウェンディ・ギャラガーさんの飼い犬です。ボーダーコリーは牧羊犬として長い歴史を持ち、その賢さや人とのコミュニケーション能力の高さからセラピー犬としてもポピュラーな犬種です。ギャラガーさんがボーダーコリーのマリーを育てる中で、彼の力が発揮される新たな場所をミュージアムの中に見出したようです。 

コロナロックダウン時期に地道に訓練を重ね、2023年のマンチェスター博物館のリニューアルオープン以降、マリーも博物館の一人(一犬?)として少しずつその活動を開始しています。現在はマンチェスター大学の学生スタッフと一緒に働きながら博物館の環境に慣れ、イベントの機会等にさまざまな人との触れ合いの機会を提供しているようです。セラピー犬としての活動はまだ始まったばかりですが、今後ますます広がっていくことでしょう。マリーが人々と触れ合う姿は、マンチェスター博物館のブログやSNSでも見ることができます。 

写真が2枚並んでいる。左の写真は、博物館で車椅子に乗った人と過ごすマリー。右の写真は、展示された象の骨格標本の下を掃除する博物館スタッフとそれを見守るマリーの後ろ姿
さまざまな人と触れ合うマリー。博物館スタッフにとっても癒される存在だ。
写真提供:#MeetMurray @KarenBrackenri4 on X (https://x.com/KarenBrackenri4/)

マリーの奮闘ぶりは、セラピー犬のトレーニング期間からSNSを通じて発信され、瞬く間に多くのフォロワーを抱える人気者になりました。ミュージアムショップにはオリジナルグッズも並び、博物館オリジナルの赤ちゃん向けグッズ 『Manchester Museum Crinkly Cloth Newspaper』の表紙にもバッチリ登場しています。 

このようなマリーの姿には、ミュージアムという場所が、さまざまな人にとってどれほど親しみやすく、さらに開かれた場所へと変わっていけるのか、その可能性が示されているように思われます。その一端はマリーのSNS投稿に付されるハッシュタグ「#MeetMurray」に表れている、と言えるのかもしれません。「マリーに会いに行こう」と訳せるこの言葉には、人々とミュージアムとの新しい出会い方の可能性が感じられるからです。 

マリーのキーホルダーと『Manchester Museum Crinkly Cloth Newspaper』の写真
マリーのキーホルダーと『Manchester Museum Crinkly Cloth Newspaper』どちらも人気のグッズだ。
撮影:ああともTODAY編集部

心の調子がすぐれない時、そっと寄り添ってくれるマリーに会いに行こう、マリーとの時間を過ごせるミュージアムに行ってみよう⸻このような入り口からミュージアムとの出会いが始まっても良いのではないか。それがきっかけとなって、人々とアートや文化との新たな関わりも生まれていくのではないか。 

マンチェスター博物館のセラピー犬マリーは、私たちにそんな可能性を教えてくれているのかもしれません。