ミュージアムの認知症啓発の取り組みとは?

ナショナル・ミュージアムズ・リバプールの「ハウス・オブ・メモリーズ」

| [文]ああともTODAY編集部

今後、世界的にも増加が見込まれている認知症。コレクションの力を活用して、そのケアに取り組むナショナル・ミュージアムズ・リバプールの取り組みを紹介します。

「ハウス・オブ・メモリーズ」は、イギリス国立の美術館博物館群であるナショナル・ミュージアムズ・リバプールの認知症啓発とケアのプログラムです。2012年にリバプールで始まったこのプログラムは、認知症にかかわるミュージアムのプログラムとして、現在ではイギリス国内のみならずアメリカやシンガポールなど、国際的にも広がっています。

美術館や博物館のコレクションや収蔵品は、その国や社会の歴史との繋がりを持っているものですが、同時にミュージアムを訪れるさまざまな人の個人的な記憶やアイデンティティ、地域やコミュニティとの繋がりも持っています。ハウス・オブ・メモリーズを率いてきたキャロル・ロジャースは、このような繋がりを通じたコレクションと人々との出会いには「記憶を喚起する力」があるのだと言います。

そしてこの力を活用することで、認知症とともに生きる当事者とその家族やケア提供者、そしてコミュニティや社会のあいだに繋がりを作り出し、認知症の啓発とケアに繋げようというのが、ハウス・オブ・メモリーズを貫く思想です。超高齢社会の進展の中で生じる様々な社会課題にコミットするのもミュージアムが果たすべき責務の一つなのです。

とりわけ、これから世界的に増加が見込まれる認知症へのケアに向き合うことは喫緊の課題と言えるでしょう。認知症のケアにおいては、その症状へのケアと同時に、その理解を取り巻く社会的な認識への働きかけも重要です。認知症という言葉には、依然として「色々なことができなくなってしまう」というネガティブな印象が絡みついてしまっているからです。しかし、認知症をただネガティブに忌避するのではなく、正しく理解することで必要な支援や地域やコミュニティと繋がることができ、実際には当事者や家族にとっても生きやすい環境を整えることができます。

ミュージアムでの認知症フレンドリーな鑑賞プログラム、タブレットやスマートフォンでコレクションが楽しめるアプリケーション、そして展覧会があなたの近くまで来てくれる移動型ミュージアムといった、様々な取り組みから成るハウス・オブ・メモリーズのプログラムは、認知症のスティグマを解消し、当事者に力を与えるプログラムになっているのです。

一連のプログラムの中では新しいテクノロジーも積極的に活用されていますが、それらはあくまでもそれを実際に使う、高齢者や認知症当事者といったユーザの視点から選び取られた結果です。その意味でハウス・オブ・メモリーズは、ミュージアムが当事者の声に耳を傾け、ときに医療やケアの専門家の知見に学びながら、時間をかけてプログラムを育てることの範例の一つと言えるかもしれません。

下の動画は、十余年にわたるハウス・オブ・メモリーズの取り組みの全体像を紹介するものです。国立アートリサーチセンターが日本語字幕を制作しました。

© House of Memories / National Museums Liverpool.